荻野美穂への批判

 

 

『生殖の政治学―フェミニズムとバース・コントロール』(山川出版)1994

 

 避妊に関する歴史書。読み応えのある部分もあったし、私はこの本を全否定はしません。

 ただ、子宮にふたをするペッサリーがすたれたことへの残念な思いと、ピルへの嫌悪感が感じられる。そこでも「ピルの解禁は、女性がいつも性交可能の状態で待機させられる」とかなんとか言うような主張があったような・・・。フェミニスト女性でピル解禁反対派の最大の動機は、そういうことへの嫌悪か? なんかセックスを被害者意識でしかみられない貧しい発想や思うけどなあ。

 それと、ところどころ、変な描写がある。
 「白人奴隷」とか。なにそれ〜?

そしたら、藤目ゆき『性の歴史学 公娼制度・堕胎罪体制から売春防止法・優生保護法体制へ』(不ニ出版)(1997年3月25日初版第二刷(普及版)発行)で解明。 これは超お薦め! 彼女はフェミニストの中では人間的にも豊かで上質な方で、歴史の解読のしかたも上質。ハッキリ言ってこっちのほうがずっと格が上だよ。
 荻野美穂『生殖の政治学』や、産経新聞「20世紀特派員」取材班『20世紀特派員』B細見三英子「あらしの性」に感じたうさんくささを、これで解明できた。最初は過激な反体制だったマーガレット・サンガーは、後に権力ベッタリになり、優生保護の考え、つまり、劣等な子供の出産を抑制しようという考えにつき、権力の援助をえられるようになったとか。やっぱり産経、細見三英子「あらしの性」、そこのとこ、ごまかしています。
 又、荻野美穂『生殖の政治学』で、女性達がなぜ避妊具解禁反対運動をしたかという理由の説明で、男の性欲のせいで女性達が性奴隷化されるから、女性の性を男性並へと解放するよりも、男性の性の女性並への抑制をめざしたって。その説明の中で「白人奴隷」って出てきたから、なんやそれ?って驚いたけど(それに関しての詳しい説明なし)、ただ単に白人娼婦のことで、米国の偏狭な社会浄化運動の純潔教育主義の方たちが「女性が自発的主体的に売春に従事するとは想像できなかった」「フェミニストたちは自己を奴隷の救済者とみなした」やて。独善の押しつけだったのね。藤目ゆきのほうが、娼婦たちの立場に理解と同情があるよ。 

 

『インパクション105号 ピルから見る世界』(1997年11月号)

 ピルとはどんな薬なのか 丸本百合子 ←ただこの方だけは悪くないですよ。よかったら読んで。
 避妊の歴史の中のピル 荻野美穂
 避妊/ピルを通してセックス&人間関係を考える 原田瑠美子・安田容子・大橋由香子
 日本でピルが認可されない理由 芦野由利子
 ホルモン避妊法が当たり前の国 草野いづみ
 セックスワーカーから見たピル 桃河モモコ
 「女性が必要とする避妊」VS「人口政策の手段としての避妊」 長沖暁子(ながおきさとこ)
 実際にピルを飲んだ10人の声 「ピル利用者へのアンケート」から 大橋由香子
 男性から見た避妊 森岡正博
 こんな避妊をやってきた 篠崎師範(しのざきふみのり)
 <孕ませる性>の自己責任 中絶・避妊から問う男の性倫理 沼崎一郎
 文学における避妊 避妊とは誰のものか 岡真理

 

 「女性の選択肢の保証のために、ピルの解禁じたいはすべきだ」と主張していたし、そこまでゴリゴリの偏狭な方ではないみたい?

 

で、解禁されたとたん、考えを変えた、と(朝日新聞)。制度と法律って人々の意識をどんなに影響を与えるかのいい例やわ。解禁バンザイ!