富永国比古「ピルはほんとうに解禁してよいのか」 ←批判

 

 

1 はじめに

ピルとは、人工的に合成された女性ホルモンをのむことによって排卵を止め、妊娠を阻 止する薬です。 最近、低用量ピルが解禁され多くの女性たちに歓迎されているようです。 しかし、まったく問題がないのでしょうか?今回はピル解禁の問題について検証してみたいと思います。

2 環境ホルモンとしてのピル

ピルも「環境ホルモン」の一つです。 ピル先進国イギリスでは、女性の尿からピルの成分が排泄され、河川に流れ出ていることが問題になりました。

一方、ピル解禁推進派である日本家族計画協会の北村邦夫先生は 「妊娠した女性の尿中にも女性ホルモンは多く含まれ、妊娠40週の場合はピル服用者の1万倍にもなる。 体外に排出されるホルモンを問題にするのは本質的ではない」と主張しています(1)

しかし、イギリスの研究者達は、 多くの経口避妊薬に含まれているエチニルエストラジオール(合成エストロゲン)が強いエストロゲン活性を示し、 ごく微量でオスのニジマスにビテロジェニン産生を誘導することを報告しています。 このビテロジェニンの血液中の濃度が高いと魚の精巣の萎縮など生殖器の異常が発現します(2)

環境ホルモンとしてのピルの問題に日本の学者達はどう対応してきたのでしょうか。

1999年3月に開かれた中央薬事審議会のレポートを見てみましょう。 「米国及び欧州のピル使用国で環境への影響を理由にピルの使用を禁止した事例はない。 ---新たな対応が必要となった場合には、適切かつ速やかに対応する」としています。 つまり、「周りの様子をみてから考えましょう」という日和見的立場です。

一方、イギリスは公衆衛生学発祥の地だけあって、取り組み方がもっと前向きです。 「懸念される物質について、 下水処理過程での構造変化、魚類その他水生生物の用量反応関係の研究等の水質基準作成に向けての 一層の努力が必要である」(3)としています。

ピル解禁に対して日本の環境グループからも問題が指摘されています。 「止めよう!ダイオキシン汚染・関東ネットワーク」は、 厚生大臣と中央薬事審議会あてに低用量ピルの認可禁止を求める要望書を提出しました。 「さまざまな化学物質がホルモンバランスを崩し、ヒトの精子の減少や生物界のメス化が起こっている。 合成ホルモンであるピルも環境に悪影響を与えるのではないか」(4)と問題点を指摘しています。

今回のピル解禁は、 「何らかの理由で」急遽決定されたとしか考えられません。 どうも「科学的に」ではなく「政治的に」決着がつけられたような感じがします。 製薬業界全体で、数千億という新たな市場ができることも関係しているかも知れません。

 

 

 
3 性行為感染症の蔓延のおそれ

ワシントン大学の研究者達は、 ピルがエイズ感染のチャンスを2.6倍増やしていることを見い出しました(5)

今回のピル解禁にあたって、 公衆衛生審議会では「低用量ピルの使用・普及が性感染症の拡大に影響を与える恐れがあるので、 大規模な啓発普及活動などにより、コンドームの使用等による予防対策の必要性の周知を図る必要がある」 とのコメントを出しました。 公衆衛生の立場からはピル解禁は大いに問題ありなのです。

その元データを必死で探してやっと見つけました。

『Martin HL Jr ;et. al. Hormonal contraception, sexually transmitted diseases, and risk of heterosexual transmission of human immunodeficiency virus type 1.J Infect Dis, 1998 Oct, 178:4, 1053-9』で検索したら20件ヒット!

Microbicides 2000: Fashioning New Tools to Deter HIV Transmission 

 Hormonal contraception, sexually transmitted diseases, and risk of heterosexual transmission of human immunodeficiency virus type 1.

和訳をしようとして、あまりの難しさにお手上げ! 誰か助けて〜(涙)!

Hormonal contraception, sexually transmitted diseases, and risk of heterosexual transmission of human immunodeficiency virus type 1.
ホルモンによる避妊、性行為感染症、human immunodeficiency virus type 1. の異性愛者間の性行為のリスク

Martin HL Jr, Nyange PM, Richardson BA, Lavreys L, Mandaliya K, Jackson DJ, Ndinya-Achola JO, Kreiss J.

Department of Medicine, University of Washington, Seattle 98104-2499, USA.
アメリカ、98104-2499、ワシントン州シアトル、ワシントン大学医学部、

避妊の方法、性行為感染症(STD)、HIV-1感染の間での関連を検査するために、将来予期される観測上の集団研究が、アフリカ、ケニアのMombasa(モンバサ)市の市営の性行為感染症のクリニックに参加する女性のセックス・ワーカーの間でなされました。
HIV-1感染に著しく関連していた人口統計学の要因及び生物行動の要因が、 仕事場、コンドーム使用および出産暦のタイプを含んでいました。
多変量のモデル(外陰炎、生殖器の潰瘍疾病、膣の解除およびカンディダの鞘膜炎)が、 著しくHIV-1血清変換《ワクチンとして投与した抗原に応答して抗体が出現すること》に関係していました。

ホルモン注射による避妊法を使用した女性は、 HIV-1感染の発生率が増加していました (危険率、 2.2。 95% 信頼区間、 1.4-3.4)。
demographic and exposure variables and biologic covariatesによってコントロールされた多変量のモデルにおいて、ホルモン注射による避妊法利用者におけるHIV-1感染の補正された危険率は、2.0です(信頼区間、 1.3-3.1)。

There was a trend for an association between use of high-dose oral contraceptive pills and HIV-1 acquisition (HR, 2.6; CI, 0.8-8.5).

高用量の経口避妊薬ピルの服用とHIV-1感染との間に関連する傾向がみられました(危険率 2.6。信頼区間 0.8-8.5)。


★ 高用量ピルのことでしょう。低用量ピルのことではない。高用量ピルではリスクが見られても、低用量だとそのリスクが減るのでは? 
★ 「危険率が2.6」でしょう? 率って、2.6パーセントってことでしょ? 1000分の26ってことでしょ? 2.6倍っていうのは間違いでは?
★ 傾向がみられたで、ハッキリとは未だわかっていないのでしょう?
 アメリカでピルが開発され、最初は生理の治療のためにFDA(アメリカで医薬品の許認可権をもつ)に認可され、そして1960年にピルが避妊用としてもFDAに認可されました。最初の頃はホルモンが高用量でしたが、副作用軽減のために低用量化が開発されてきました。日本では、ピルはあくまでも生理の病気の治療のためにしか認可されず、そのためには高用量のピルだけしか認可されませんでした。日本では、避妊方法を求める患者のために医師の判断で高用量ピルを処方してあげていました。避妊用としてはピルが認可されず、低用量ピルは1999年まで認可されませんでした。
 もし仮に、高用量ピルを避妊用として服用するとエイズにかかりやすくなるというデータがあるのなら、大至急、避妊用低用量ピルに変更するよう指導するのがほんとでは? これだけのデータだと分かりにくいのですが、高用量ピルの服用者と、低用量ピルの服用者と、どちらがどうHIVに感染しやすくなるというのか、その比較対照データもほしいですね。 同じくらい? それとも低用量ピルのほうがHIVに感染しにくいのでは?

 

 

4ピル解禁によって人工妊娠中絶は減るのか

現在日本では、年間四〇万件もの人工妊娠中絶が行われており、 望まない妊娠を防ぐための対策は絶対に必要です。 しかし、ピル解禁がその決め手になるのでしょうか? 米国における年間の妊娠中絶件数は 1975ー1992の統計ではほとんど変化がないようです。 これは、ピル解禁前も後も中絶件数は減っていないということを示しています。

 

 

5女性の自己決定権とピル

お茶の水女子大の原ひろ子教授は 「ピルを全面的に禁止するのは、ピルを待ち望む女性たちの声を無視する一方的な解決法。 環境問題を憂慮しつつも、女性の避妊の選択肢を可能な限り広げるべきだと思う」(6) と話しています。
この考えは、「産む、産まないは女性の権利」という、 現代のフェミニズム思想の大きな流れの一つになっています。

しかし、今回政府がピル解禁を発表したときに、 女性の立場からピル解禁に異義を申し立てたグループも出てきました。 私は、今も女性が社会のなかで不当な扱いを受けている事実に心を痛めている者の一人です。 しかし、純粋に女性あるいは人間の健康という立場から見た時に、 ピル解禁はどういう意味を持っているのでしょうか?  確実なことは、女性だけが一方的にピルの副作用(脳血栓や乳癌のリスク)を背負うことになること、副作用チェックのために、3ヵ月に一度婦人科で自費の健診を受けなければならないということです。

岐阜大学医学部公衆衛生学の研究グループが、 現在ピルを服用している女性のライフスタイルを研究しました。 35-49才の18、000人の女性でピルを使っている人は1.3%で、 ピル使用者の多くは、心臓疾患の危険因子である喫煙習慣があり、 癌や心臓病を予防する緑黄色野菜などの摂取が少ないことがわかりました(7
ピル解禁にともなって、健康に最も関心が薄い若い世代の使用者が増えることが予測されます。彼等に対する健康教育の責任は一体誰がとるのでしょうか?

 

 
医者の台詞とは思えませんね。あらゆる医療行為には、経済的負担がかかります。患者に経済的負担がかかって可哀想だからって、あらゆる医療行為を禁止するか?
産まれながらのハンデのある方々(身体障害者など)には、健常者よりも医療の経済負担が大変でしょう。だからといって「身体障害者にばかり経済的負担がかかるから」と医療を禁止するか?
産まれながらのハンデを背負われた方々が、今最先端医療を利用してでも少しでも自由を獲得したいと思うこと。それのどこがいけないというのでしょう。
身体の機能で妊娠という宿命を背負わされた女性だけが自費の検診を受けることで経済的負担がかかったら可哀想ってお思いだからって、産婦人科での避妊・出産を全否定し、禁止なさるか? それよりも、社会が経済援助をするとか、健康保健の適用をする方向に行くとかって考えもあるでしょう。
英国では、未成年者はあるセンターに行けば無料で避妊具がもらえるし、成人女性も安い値段で避妊具が購入できるって。でフランスでは、公立病院で無料で中絶できるって。アメリカでも州や地域によって違いますが、若い女性の性に関して容認している地域ではピルを簡単に入手できるって(逆に独身女性の性に厳しいところでは簡単に入手できませんけどね)。
クックックック・・・富永先生。女性が避妊具を簡単に安い値段(それか無料)で入手できるようになると、それはそれでいやなんでしょ。性行為へのアクセスが容易になるから、イヤなんでしょ?

本当は、女性のセックスの活発化が嫌なんでしょうが。 

 

 

【彼等に対する健康教育の責任は一体誰がとるのでしょうか?】って、どういうことでしょうか?
考えられる答えは3つ考えられます。
健康管理、疾病予防と疾病治療は、
 ★ 「自己責任だ」
 ★ 「自己責任じゃなく、社会の責任だ」 →★国民への管理・規制強化 危険要因のあるものは禁止
                     →★社会が(税金や寄付金などを元に)負担して、弱者を保護する
富永国比古医師のお答えは、文脈からしたら、★ 「自己責任じゃなく、社会の責任だ」 →★「国民への管理・規制強化 危険要因のあるものは法律で禁止」でしょうか?
人が「健康管理は自己責任で、失敗したらそれは自分の責任だから自分で責任をとれ!」っていうのも冷たいなあ思うけど、それはそれで未だ分かる。
私がいやなのは、権力による国民に対する法律での規制と禁止なのね。
ピル服用と、喫煙及びダイエットによる必要な栄養素の摂取不足とが重なると、大変な健康被害となるっていうのなら、そういう情報を与えたらいいじゃないですか。
ずっと前、煙草の害を主張する本があって、お笑いタレントの今田が「これ読んで煙草を止めました」って帯で宣伝していた。それはそれでいい話だと思います。
そういう情報を与えても、健康に気を使わないやつって、そら、いますよ。それはそれで、そいつの自己決定で自分の判断でしょうしね。
煙草や酒が健康に悪い。自然食品じゃなく、カップヌードルやスナック食べるのは身体に悪い。それをちゃんと知ってて食事に気を使うのがいて、逆にそれぐらい情報として知っていてもやめないやつはいますよ。
運動不足も健康に悪い。だからキチンと運動するのもいれば、運動しないのもいます。
 例えば、喫煙による健康破壊も、緑黄食野菜の摂取の不足による健康破壊も、自分の判断です。
酒も煙草も、それぞれ自分の判断で利用し、それで身体に悪影響が出たって、そんなもん自己責任じゃないですか! 確かに、酒や煙草の中毒でお体を悪くなさった方もいらっしゃるでしょう。それでも、酒や煙草を、国が禁止するのには反対です。かつてのアメリカでは、禁酒法という法律が制定されました。ところが、ギャングや闇の酒の密売で大儲けするようになったのは有名な話ですよね。そして、どこの研究だったかは知りませんが、逆に酒の飲酒量が増大したとか。「飲めない」となったら、逆に大量に飲みたくなるのね。欲望を、抑圧されたら、逆に反動で増大するって。
酒や煙草を止めたくってもやめられない弱者への配慮をいうのなら、アメリカでは禁酒や禁煙の会とかがあって、お互い励ましあいながら、やめたいお酒をやめるようにしているって。
運動不足で身体を悪くなさった方たちのための手助けをなさる会もあるとか。肥満者のための痩身する手助けをなさる会もあるとか。
女性の中でも、こんだけ、脅迫的な「痩せろ!」の抑圧だらけなのに、それでも100kg肥えたのが実在します。
例えアホでも、太った女性はこの世の中で不利だということぐらいは十分知っていますよ。周りの人々から相当注意をうけていますよ。彼女は、頭もよく、かなり我慢強く努力家なのに、なぜか太っている。それに体重計の目盛りを直視するのが怖くて見ないようにしているって。気にはしているのよ。
痩せたいと自分から働きかけた女性を、手助けするような方や施設や医者の存在は大切ですし、私もそういうのなら素晴らしいと思いますよ。でも、国で「デブ禁止」で強制的に痩せさせようとするのには反対です。そういうのは逆に太っている方々に対して気の毒だからです。例え、自分でも肥満を気にしている方でもです。
社会による弱者保護と、社会による国民への規制・管理強化とをわざと混同したことを主張なさる方には困りますね。
★ 弱者を弱肉強食のジャングルに裸で放り出す。
★ 国民への管理・規制を強化する
「さあ、どちらか2つから選べ」って、ひどい誘導をするの。どちらもひどい。
健康管理ができていない方々への手助けをするっていうのなら素晴らしいと思いますよ。
「どうせ自己管理なんかできないだろうから、○○を禁止・規制しろ」ってなるのは、ファシズム国家の独裁者の考えです。
それと、例をあげてらした参考文献を探し、チェックしてみました。それを読んでみたら、例の研究者たちは、日本では低用量ピルが禁止されているので、生理の治療のために認可されている高用量ピルを避妊に転用している女性たちのことを調べただけですね。

『Nagata C; Matsushita Y; Inaba S; Kawakami N; Shimizu H:Unapproved use of high-dose combined pills in Japan: a community study on prevalence and health characteristics of the users.Prev Med, 1997 Jul, 26:4, 565-9』で検索したらヒットしたのが、

岐阜大学医学部・付属病院→「公衆衛生学講座」  
岐阜大学医学部公衆衛生学教室HP→「業績リスト1993−1999年」「Nagata C; Matsushita Y; Inaba S; Kawakami N; Shimizu H:Unapproved use of high-dose combined pills in Japan: a community study on prevalence and health characteristics of the users.Prev Med, 1997 Jul, 26:4, 565-9」 和訳

 

高用量混合型ピルの、日本では是認されていない使用。 服用者の普及と健康の特性に関するコミュニティー研究。

Nagata C, Matsushita Y, Inaba S, Kawakami N, Shimizu H.
ナガタC、松下Y、イナバS、カワカミN、シミズH

Department of Public Health, Gifu University School of Medicine, Japan. chisato@cc.gifu-u.ac.jp
日本、岐阜大学医学部公衆衛生学教室。chisato@cc.gifu-u.ac.jp 日本、岐阜大学医学部公衆衛生学教室。

背景
日本での経口避妊薬使用の禁止のために、メンスの病気の治療法として許された高用量混合型ピルが、医師の判断のもので避妊薬として転用されてきました。 私たちは、そのような日本のコミュニティーの中での服用準備の普及を決定し、服用者の健康特性を評価しました。

方法
日本の岐阜県在住の35歳以上の女性合計18,435人の女性の居住者が、高用量混合型ピル、ライフスタイルおよび食習慣に関する質問も含む健康をアンケートに1992年に答えた。 返答率は92%でした。

結果
35〜49歳の女性たちの間での現在及び過去での高用量混合型ピル利用率は、それぞれ1.3および7.1%で、2.2%の女性たちが他のどんな避妊方法よりも長期間利用してきました。
現在、高用量混合型ピルを服用している女性たちには喫煙者がより多い傾向があります。彼女たちは、ピルを服用したことがない女性たちよりも、カロティン、ファイバー、ヴィタミンC及びEの摂取が少なく、a lower polyunsaturated/saturated fat ratio(ポリ不飽和/飽和脂肪比率)が低い値をしています。

結論
日本の35歳〜49歳の女性における高用量混合型ピル服用の普及は、1.3%でした。
(心(臓)血管疾患に対する潜在的な危険因子(例えば、喫煙や、身体に必要な酸化防止剤摂取を少なくするダイエットなど)は、現在の高用量ピルの服用者たちの間で普及していた。

 

6 参考文献

1)よくわかる環境ホルモン学、環境新聞社、pp69?75

2)英国環境庁報告書:Endocrine-Disrupting Substances in the Environment, January 1998

3)環境汚染ーーピルで生態系に悪影響 認可禁止求め要望書、松村由利子、毎日新聞1998年12月4日

4)Martin HL Jr ;et. al. Hormonal contraception, sexually transmitted diseases, and risk of heterosexual transmission of human immunodeficiency virus type 1.J Infect Dis, 1998 Oct, 178:4, 1053-9

5)Nagata C; Matsushita Y; Inaba S; Kawakami N; Shimizu H:Unapproved use of high-dose combined pills in Japan: a community study on prevalence and health characteristics of the users.Prev Med, 1997 Jul, 26:4, 565-9

 

参考文献の、番号の記入ミスがあったみたいね。いくつか、ずれているのがある。